こんにちは!kappa(@kappa10.01)です。
前回の記事では、写真の印象を左右する「光(明るさ)」のパラメーターについて解説しました。現像で光をコントロールするだけでも写真は見違えますが、もう一つ、写真の空気感や写真から想起する感情を決定づける重要な要素があります。
それが「色」です。
色は光以上に感情に働きかける効果が大きいです。「赤く染まる夕焼けによってドラマチックに表現する」、「写真全体を青いトーンで調整することで冷たい空気感を表現する」など、色を使った表現は無数に存在し、その表現を助けるために現像ソフトにも様々なパラメーターが用意されています。
現像ソフトでの操作自体は光の調整と同じくスライダーを動かすだけなので直感的ですが、色というものは思っている以上に複雑な仕組みとなっていて、それらを理解し、現像ソフトに複数用意されているパラメーターを使いこなそうと思うとやはりハードルがあります。
この記事では単に色に関するパラメーターの解説をするだけにとどまらず、色の仕組みの部分から解説をしていこうと思います。
物理現象と生理現象から見る「色」の正体

まず色の正体についてです。色も光と同様に物理現象ですが、物理現象としての色とは別に、生理現象としての色というものがあります。物理的には存在しないのに我々人間には見える色というものがあるのです。ここでは物理現象・生理現象両面から色というものについて解説します。
物理現象としての色:連続する「波」としての光

物理現象としての色の正体は、電磁波(光)です。光そのものと言ってもいいと思います。色としての違いが出るのはその光の波長が異なることによります。
私たち人間に見えるのは光の波長がおよそ380nm(紫色)から780nm(赤色)の間の光のみです。いわゆる紫外線や赤外線というのは380nmよりも波長が短いあるいは780nmよりも長い波長の光になります。私たち人間が見ている光(色)と見ることができない紫外線や赤外線は全くの別物ではなく、波長が違うだけの同じ光ということになります(もちろん性質は全然違いますがここではその話は割愛します)。

生理現象としての色:3種類のセンサー(錐体細胞)
一方で生理現象としての色を理解する上では、目の中にある錐体細胞という色を感じ取るセンサーが重要となります。
色を感じ取るセンサーの錐体細胞にも種類があり、人間にあるのは以下の3種類です。
- L錐体:長波長に反応し、主に「黄緑」や「赤」を感じる。
- M錐体:中波長に反応し、主に「緑」を感じる。
- S錐体:短波長に反応し、主に「青」を感じる

これら3種類の錐体細胞が受け取った刺激の強さの比率や量で人間は色を感じ取ります。より厳密に言えば、各錐体細胞は特定の波長に対して反応をするだけなので、その反応の量や強さなどを脳が解釈して色を感じ取っています。
さらに、この3つの錐体細胞は均等な数存在しているわけではありません。L錐体が最も多く、M錐体が次いで多くてS錐体についてはわずか数%しか存在しないと言われており、加えてこの比率は人によってかなり違うと言われています。
このことからもわかるように、人間の生理現象としての色は物理現象のような厳密な波長に紐づく色とは違い曖昧さを持っていると言えます。
【色の定義】デジタルで「色」をどう計り、どう収めるか?
物理現象としての色と生理現象としての色が違うということが分かったところで、次にそれをデジタルでどう表現するかという話に移っていきます。生理現象としての色の曖昧さのままではデジタル空間で色が表現できないので、デジタル空間で表現するための色の定義の話をしていきます。
色の三要素:人間が色を捉える3つの物差し(HSL)
人間は色を認識するとき、無意識のうちに3つの要素に分解しています。それが色の色相(Hue)、彩度(Saturation)、輝度(Luminance)です。それぞれの英語の頭文字を取ってHSLと略されることもあります。
- 色相(Hue):「赤」「青」といった色の種類
- 彩度(Saturation):色の鮮やかさ。グレーからの距離。
- 輝度(Luminance):色の明るさ。
現像ソフトでは人間が直感的に色を操作できるようこれらHSLの3つをパラメーターとして調整できるようにしています。

デジタルでの色認識:色空間(RGB)
コンピューターは人間と違って「赤っぽい」、「鮮やか」といった曖昧な言葉を理解できません。そのため、デジタルで色を表現するためにHSLとは異なるRGB(赤・緑・青)の3軸で作られた「色空間(カラースペース)」という3次元の箱の中に、座標として記録されます。
私たちが写真として記録した色は、sRGBやAdobe RGBといった、決められた大きさの色空間の中に収められています。sRGBやAdobe RGBという形で色空間も様々な種類がありますが、この場では割愛しようと思います。

なぜRGBではなくHSLで調整するのか?
ではなぜ現像ソフトでを調整する際、デジタルでの色認識であるRGBではなくHSLで色を調整しているのでしょうか?それは、「この色の彩度を上げたい」と思ったとき、RGBの数値をそれぞれどれくらい増やせばいいかを人間が計算して操作するのは不可能に近いからです。
例えばR=150, G=50, B=50の色があったときに、彩度を増す場合にはどうすればいいのでしょうか?RGBの数値を見ると赤の成分が多いから赤の数字だけを増やしてみるかもしれません。しかし実際にやってみると彩度が上がるというよりも色相が変化してしまいます。

イメージとしては赤、緑、青の絵の具の比率を調整して色を作っている中で特定の色の彩度を上げてくださいと言われてもどの絵の具をどの程度追加すれば良いのかすぐにわからないのと同じです。
現像ソフトは、人間の言葉であるHSLをコンピューターの言葉であるRGBに翻訳してくれている通訳機のような役割を果たしています。
【色相環】なぜ色相だけが環状になっているのか?

色の仕組みについてある程度わかってきたところで現像に関わってくる「色相環」と「補色」についても触れようと思います。
冒頭で触れた通り、物理学的な色の正体は 380nmから780nmまでの光の波長で、一直線の軸で表現されます。しかし、現像ソフトを開くと、色は必ず円状の「色相環」として表現されています。
実は直線が輪になって表現されていることの裏には、人間の脳が起こす錯覚が隠されています。
存在しない色「マゼンタ」
先ほども書いた通り、人間が認識している色は380nmから780nmまでの光の波長で直線上にプロットされます。380nmは色で言うと紫、780nmは赤です。この2つは直線の端と端に位置するので混ざり合うことはなくこれらが混ざりあった赤紫色の光の波長というものは存在しません(ちなみに380nmと780nmの中間である580nmはだいたい黄色です)。
しかし私たちは赤紫色(マゼンタ)という色を実際に認識しています。実はマゼンタは、短波長の紫と長波長の赤とが同時に目に入ったとき、脳が「これは赤と青の中間の色だ」と勝手に合成して作り出した存在しない色なのです。

こうして脳の錯覚によって直線の両端がつなぎ合わされるため、現像ソフトの色相表現では円環として表現され、「色相環」と呼ばれているのです。
補色のメカニズム

ここで実際の色相環の作られ方と補色にも触れておこうと思います。
色相環というものは、「”ある色”の真反対にある色はその色と混ぜると白になる」というルールで作られています。この混ぜると白になる、色相環上の真反対の色を「補色」と呼んでいます。
光の三原色というものを聞いたことがあるかと思いますが、光というのは赤、緑、青を等量ずつ混ぜると白になります。つまり、色相環上で向かい合っている色というのは足し合わせると赤、緑、青が等量ずつ混ざった状態になるということになります。
例えば以下のようなRGBで構成される色があったとすると、
0.3R + 0.5G + 0.8B
その補色は以下のようなRGBになって、
0.7R + 0.5G + 0.2B
足し合わせるとRGBが等量になって白になるわけです。
(0.3 + 0.7)R + (0.5 + 0.5)G + (0.8 + 0.2)B = 1R + 1G + 1B = 白
この補色は当然私たちの脳の中の仕組みとも関連しています。人間はL錐体、M錐体、S錐体というものが感じ取った信号を解釈することで色を感じていると書きましたが、この信号の解釈とは以下の2つのチャンネルのシーソーで成り立っています。
- 赤-緑 チャンネル
- 青-黄 チャンネル
例えば「赤ー緑」のシーソーで赤側がより強い信号であれば「赤」と認識され、真ん中で水平になれば「色を感じない(無彩色)」と判断されます。例えばここでシアン(緑+青)の光を足し合わせると緑の信号が足されることになるので「赤ー緑」のシーソーが平行になるので色を感じない無彩色になるわけです。
この生理的な色の感じ方と補色の役割は現像の際に重要となる色かぶりなどに関わってくる重要な観点となります。
写真の色を操る基本要素:それぞれの役割と違い
さてここまで色の基本的な理論について解説をしてきましたが、ここからは現像ソフトでおなじみのスライダーを深掘りします。ここまでの色の基本的な理論を理解していると、スライダーの意味や何をしているスライダーなのかがかなり理解しやすいのではないかと思います。
【色温度(ホワイトバランス)】:写真の「温かさ」を決める
色温度(単位:K / ケルビン)は、写真全体の「青〜黄・赤」のバランスを整えて、白いものを正しい白に補正するための現像において最も基礎となるパラメーターです。このパラメーターは脳内の青-黄チャンネルのシーソーと対応をしています。
色温度を青よりにすれば写真は「涼しげ」、「爽やか」といった印象になりますし、黄・赤よりにすれば「暖かい」、「情熱的」といった印象の写真になります。
ちなみに名称に温度とついているのは青が涼しげで琥珀色が暖かい印象だからではありません。むしろ数字としては逆で色温度が高くなると青に、低いと黄・赤になるようになっています。
これは色温度という言葉が物理現象の「黒体放射」というものに基づいているからです。イメージとしては鉄を熱したときの色と温度の関係性です。鉄を加熱してしばらくすると赤っぽくなりますが、さらに加熱をしていくと白っぽくなっていくように、色変化を温度とを結びつけたものになっています。

この色温度のスライダーを用いて、写真内の白色を正しい白色になるよう補正します。色温度スライダーがホワイトバランスと呼ばれるのはそのためです。写真内に写った白いものは撮った光環境(太陽光なのか、蛍光灯なのかなど)によって黄色っぽくなっていたり青白っぽくなっていたりと、本来の白から色が異なっていることがあるからです。
実際に色温度スライダーを使って写真を補正してみたのが下記の写真です。朝焼けの色で全体的にオレンジ色になっていたものを修正した例となります。
ただしLightroom Classicの場合、青側が低温、黄・赤側が高温になっています。これは直感的にするためなのか、写真の色温度が高い場合(つまり青白い写真)に黄・赤に寄せるということを意味している、つまり高温を補正するための色としての黄・赤、として定義されているのか、その辺は不明です。

【色かぶり補正】緑とマゼンタのバランス
色温度だけでは、写真の色をニュートラルに整えることはできません。色温度は青~黄・赤の調整のためのスライダーですが、現実はこれ以外の色も含めた光でできています。そこで「色かぶり補正」というスライダーを使って補正をします。

つまりこの色かぶり補正も色温度と同じく、写真内の白を正しい白に補正するために用いるものです。
色温度は暖かいイメージと冷たいイメージで使い方も想像がつくがなんで色かぶり補正は緑とマゼンタなんだろうかと思う方も多いかと思います。
理由はいくつかありますが、一つは色かぶり補正の色軸が色相環で見ると色温度に対して垂直に交わるからです。垂直に交わる二軸が揃って初めて、2次元の色平面上のあらゆる場所にある「白」を、中心のニュートラルな白へと引き戻すことができるのです。

他にもカメラのセンサーの特性による理由もあります。多くのデジタルカメラのセンサーは緑のセンサーが赤や青のセンサーの2倍配列されるベイヤー配列を取っています。つまり緑の情報がもっとも正確に取れる情報になっています。そのためこの緑を基準にして正確に計算できるようにしてるという事情もあります。
実際に色かぶり補正を使って写真を補正してみたのが下記です。緑が多い環境だとどうしても写真全体が緑色になってしまいます。この写真もよく見ると被写体のエゾシカがやや緑色になってしまっています。そこで色かぶり補正を使ってマゼンタ側に寄せることでエゾシカの色を正しい色に戻しています。
【彩度】全体の鮮やかさを変える
彩度のスライダーは色を操作するスライダーの中で一番わかりやすいスライダーではないかと思います。彩度を操作することで色の鮮やかさを変化させることができます。少し彩度を上げるだけでぱっと写真が華やかになるので使っている方も多いと思います。

色の鮮やかさを変える彩度のスライダーですが、デジタル現像における彩度操作は、単に色を濃く塗るという話ではありません。デジタル写真はここまで書いた通りRGBの3つの光の値で色や明るさをコントロールしているので彩度調整にあたってもこれらの数値を変化させることになります。
彩度計算はグレー(無彩色)からの距離で行う
現像ソフトによって彩度を変える際、各ピクセルに対して次のような計算式を適用しています(赤の場合の例)。
R’ = L + s(R – L)
R’:調整後の新しい赤の値
L:そのピクセルの「輝度(明るさの基準)」
s:彩度係数(スライダーの値)
(R – L):その色がグレーからどれだけ離れているか(色の偏差)
この式が意味するのは、「彩度調節の際にはそのピクセル本来の明るさ(輝度L)を支点にして、色味の成分をバネのように引き伸ばしたり、縮めたりしている」ということです。スライダーを右に動かせばバネが伸びて鮮やかになり、左に振り切って s=0 になれば、色味の情報がなくなってモノクロ写真になります。

輝度Lとは何か?
ここで重要なのが 「輝度 L」 の存在です。光の三原色は赤と緑と青を足すと白になりますが、デジタル現像における明るさ(輝度L)は、単純な R,G,B の平均値ではありません。
なぜなら冒頭にも書いた通り、人間の目は「緑を明るく、青を暗く感じる」という特性を持っているからです。そのため、現像ソフトは緑の比率を多く含んだ以下の比率で輝度を計算しています。(前述の輝度LはR, G, Bいずれも等価として記載しましたが、実際には異なるということになります。)
L = 0.299R + 0.587G + 0.114B
この「人間の感覚に近い明るさ」を計算に使うことで、写真の露出(明るさのバランス)を一切崩すことなく、色味の濃さだけを純粋に調整できるようになっています。
クリッピング(色飽和)はなぜ起こるか?
彩度を上げすぎると色が潰れ、ベタ塗りのようになってしまいます。これをクリッピング(色飽和)と呼びます。これは上述の計算式によってピクセルが持てる数字の上限値に到達してしまうことで起きます。
以下の画像は彩度を上げすぎてクリッピングしてしまった画像の例です。特にオレンジ色の部分の色が潰れてしまっています。

デジタル写真(8bitの場合)は、RGBの各色が0から255までの数値しか保持できません。先ほどの式で計算した結果が260になったとしても、データは255で頭打ちになります。
基本的に写真においては同じ色で表現されているように見えるピクセルでも実際には少しずつ値が異なり緩やかなグラデーション(階調)を形成しています。
本来ならグラデーションがあったはずの部分のピクセルの数値がすべて255に張り付いてしまうことで、花びらの質感や肌の微細な凹凸が消え、ベタ塗りのような不自然な質感に陥ります。これが彩度を上げすぎた写真が安っぽくなってしまう原因です。
【自然な彩度】クリッピングさせずに鮮やかさを制御する
彩度のスライダーは写真全体の彩度を一律に変えるスライダーですが、これだと彩度の高い部分と低い部分が共存するような写真に対してはやや不都合です。彩度の低い部分の彩度を上げるとすぐに彩度の高い部分が色飽和をしてしまうのです。
この問題を解決するために、Lightroomには自然な彩度というスライダーが彩度とは別で用意されています。

これは全てのピクセルを等しく扱うのではなく、彩度が低い部分ほど強く、彩度が高い部分ほど弱く彩度が上下するスライダーになっています。
実際に彩度スライダーで調整した場合と自然な彩度スライダーで調整した場合を比較した写真は以下の通りです。
まとめ
ここまで「色」の正体を、様々な視点から紐解いてきました。一見、感覚的に動かしているように思える現像スライダーですが、その正体は非常に論理的な計算の積み重ねです。これらを少し頭に入れておくだけでもどんなときにどのスライダーを動かすべきかのイメージも湧きやすくなると思います。
今回の解説した色に関するパラメーターについて改めてまとめると以下のようになります。
- ホワイトバランス(WB): 人間の目の特性(緑に対して高感度)を考慮した色温度(青ー黄)と色かぶり補正(緑ーマゼンタ)の2軸で、白の基準をキャリブレーションする。
- 彩度: 写真を構成するピクセルのデータから輝度分であるグレーを差し引いて彩度を一律で操作する。上げすぎるとデータが最大値になってしまい色飽和(クリッピング)を起こす。
- 自然な彩度: 低彩度を優先して調整し、彩度の高い部分については変化を抑えるパラメーター。
次回は、特定の色だけを狙って操作する「HSL」と「カラーグレーディング」について解説しようと思います。

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